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■高橋健一行政書士インタビュー
JR三鷹駅から歩いて3分という便利な立地ながら、緑豊かな落ち着いた道沿いにある行政書士高橋法務事務所。事務所内相談スペースには、壁一面に蔵書が並ぶ。「知らないことで人は損をする」が相談者への口癖であり、自らも週に3冊本を読むという高橋行政書士に、この仕事を始めたきっかけ、仕事へのこだわり、離婚の本質などについてインタビューした。(聞き手 熊坂仁美)
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― ホームページを拝見して「養育費支払い率」という言葉がまず目に止まったのですが、支払い率というのは何ですか。
「支払い率」というのは、離婚成立後、子供を引き取った母親が養育費を毎月受け取れている確率です。この数値は依頼者に追跡調査をしないと出てきません。調査は義務ではないので、やらない人も多く、支払い率が明記されているホームページはあまり見かけないと思います。
自分の仕事を単に「公正証書の作成」だと思えば、支払い率の計算は必要ないのかもしれません。でも私は自分の仕事を「依頼者の離婚後の生活安定をサポートすること」だと考えています。支払い率は、生活安定の指標の一つですから、追跡調査は必ず行っています。
― その支払い率ですが、厚生労働省のデータで20%のところを、91.3%というのはかなり高い数字だと思います。なぜ高橋法務事務所ではそんなに支払い率が高いのでしょうか。
理由はいくつかあります。
まず、「未払い」を未然に防いでいることです。当事務所のアフターフォローでは、未払いが発生した場合、無料で相談に応じています。 ただし、対応時間の確保が困難になりつつあったため、苦渋の決断でしたが、2010年7月以降の公正証書作成の依頼分からは、やむを得ず有料化に踏み切りました。
相手が単純に振り込み忘れているということもありますので、早めに連絡を取ることで、ほとんどは解決します。そして、すぐに相手に連絡を取るためには、離婚後にお互いに連絡が取れる状況を作っておかなければなりません。それには離婚の際の取り決め、つまり公正証書をきっちりしておく必要があります。
そういう意味で、当事務所の支払い率が高いのは、公正証書の作り方に最大の理由があると思っています。
― 公正証書というのは、どこで作ってもそう変わらないのではないかと思っていたのですが、違うのですか。
全く違います。一般的に公正証書というと、離婚時に話し合った内容を書くだけなので1700文字ぐらいです。しかし当事務所が作成する公正証書は6000文字ほどあります。
公証役場に持って行くと、たいてい「こんな公正証書見たことがない」と驚かれます。
ほとんど契約書に近い、かなり踏み込んだ内容なので、どうしてもそれぐらいのボリュームになってしまいます。
― 踏み込んだ内容とは、具体的にはどんなことですか。
まず始めに、離婚に当たってどういう項目について話し合わなければならないのかを決めます。たとえば、子供が成人した場合、どちらかあるいは両方が再婚した場合、養子縁組した場合、病気になった場合、子供が就職した場合、そしてアルバイトなのか契約社員なのか正社員なのか、「就職」の定義まで決め、それぞれの場合にどうするのかを細かく決めます。
また、養育費が払われない原因の一つに、払ったお金を母親が自分のために使ってしまうのではないかという父親側の疑惑があります。そこで、養育費を受け取る母親側の家計簿作成義務まで記述しています。
このように、現実的な数字、現実的な取り決めでお互いが合意していれば、人はちゃんとそれを守るものです。未払いの最悪のケースは「養育費差し押さえ」ですが、そこまでに至ったことはこれまで一度もありません。
逆に言えば、養育費の未払いが起きるということは、取り決め方が甘かったことが原因と言えるかもしれません。
― 公正証書はきちんと作らなければならないということですね。きちんと作ってくれる行政書士さんの見分け方があったら教えてください。
公正証書は「てにをは」を誤用しただけで意味が違ってしまうこともあります。ですから、依頼しようと思っている行政書士の書いた文章、たとえばブログなどをチェックしてみてください。専門性が読み取れるか、日本語を書く能力、緻密に正しく使えるかということを見て判断されると良いと思います。
― ところで、高橋さんは15年にわたって1万人の相談を受けたそうですね。
そうなんです。もとから私は、相談されやすいタイプだったようです。法律を学び始めた大学2年の頃には、親戚や友人などから「何かあったら健ちゃんに相談」と言われるようになっていました。
当時、私のまわりでは、親戚関係だけで3組も離婚問題が起きていました。バイト先でも、パートの主婦の方に離婚の相談を受けることはしょっちゅうでした。
大学を出て、カーディーラーの営業として働き始めた時も、そして次の職場でも、お客さんや同僚から夫の愚痴を聞いたり相談を受けたりが続きました。今思えば、あの時代が私にとって下積み経験だったのだと思います。人の相談に乗るのは大変なこともありましたが、それが今の仕事に活かされています。
― 現在の離婚専門の業務を行うようになったのはなぜですか。
もとからサラリーマンを長くやるつもりはなく、行政書士の資格を取って士業の勉強会に参加するなど準備を進め、平成15年に独立しました。当初は一般的な書類作成業務も行っていました。
離婚問題専門にやっていくことになったのは、幼馴染みの自殺がきっかけでした。
その女性は私と同い年。若くして結婚し、子供もいました。しかし結婚した相手が本当にひどい男で暴力がひどく、いつもアザだらけで夏でも長袖を着ていました。
悩み抜いた彼女はそのうちうつになりました。私は心療内科に連れて行き、何とか彼女に立ち直ってもらいたいと努力したつもりでしたが、ある日遺書を残して自宅で首をつってしまったのです。第一発見者が子供という最悪の事態になりました。
― それはショックだったでしょうね。
もう、立ち直れなかったですね。彼女を救えなかったことで、私自身もその後ショックでおかしくなり、入院したほどでした。
葬式の時に火葬場で、彼女の骨を見て誓いました。「僕は、今後君のような人を決して出さない」と。
今の私なら、彼女を救う自信があります。でも当時はできませんでした。それが本当に心残りです。
― なぜ今なら救えるのですか。
今は、表情を一目見れば、うつ気味かどうかがわかりますし、服用している薬を聞けばたいていの場合わかります。また、自殺願望が出るのはうつが治りかけの時期で、その時期こそ周囲の人間が注意深くする必要がある、ということが今はわかるので、その時期には他の業務を停止してでも、24時間対応に専念したと思います。
そのことがあってから、心療内科と提携し、依頼者がうつの場合は、まず治療に専念していただくようにしました。うつの状態で重大な決定をしてはいけないからです。
そして、離婚後は、一家の大黒柱となって子供を育てていくわけですから、経済的、精神的に自立してもらうための教育が必要です。『最強の「母親力」養成講座』という教育プログラムを作ったのはそのためです。
― 『最強の「母親力」養成講座』とはどのような教育プログラムなのですか。
このプログラムは、誰もが受けられるわけではなく、うつや精神的なダメージから回復し、私が大丈夫と判断した方のみ受講していただけるものです。私のこれまで経験から導き出した独自のメソッドで、ビジネスパーソンとしての教育をメールベースで行うものです。レベルに応じた課題図書も出しています。
結婚年齢が早く、社会人経験も少ない方が多いので、メールの書き方から教えることもよくあります。時には厳しいことも言いますし、時間もかかりますが、がんばった方はやはり結果が出ます。これまでの生き方や考え方を変えるきっかけになると思います。
― 高橋さんにとって、離婚問題の本質とは何だと思いますか。
私は、「知らない」ということではないかと思います。自分のことをよく知らない、相手のこともよく知らない。その状態で結婚という選択をしてしまう。
日本の場合、離婚の原因で圧倒的に多いのが「性格の不一致」と言われています。
しかしよくよく考えると、これは矛盾していますよね。一致していないから、相手が自分と違う面を持っているから惹かれたわけですし、そもそも、赤の他人なわけですから、性格が完全に一致するなんてことはないのです。
そういう意味で、相手を選ぶ時だけでなく、生きていく上で身につけなければならないのは、人に対する目利き力だと思っています。
依頼者に「ご主人のどこに惹かれたか」と言う質問をする、すると「優しいところ」という答えが返ってくるとします。でもそれは、優柔不断ということも言えるわけです。このように、物事を一面的ではなく、違う側面から見てもらう。「裏メッセージを読む」トレーニングをしてもらっています。
― これまでの相談者で印象に残ったケースを教えてください。
35歳の女性Aさんは印象的でしたね。
最初に来られた時、50歳ぐらいに見えました。受付表に年齢を書かれた時には本当にびっくりしました。
この方は、いわゆる「モラルハラスメント」の被害者でした。夫から「豚」などと、人格を否定するような言葉でののしられる精神的な暴力です。モラルハラスメントの被害者の特徴は、自立心がなくなることです。無気力で、何もしなくなってしまうのです。
Aさんの依頼の内容は、小学生の娘への遺言書を作って欲しいということでした。35歳で遺言書を書くというのは、通常ではあり得ません。
そこで心療内科の先生と連携し、モラルハラスメントから立ち直っていただき、無事離婚ができました。今は見事に回復され、仕事もされています。
― 高橋法務事務所に公正証書作成をお願いするとどんな流れになるのでしょうか。
まず、メールで連絡をいただきます。その時に、電話相談か面談のどちらかを決め、アポイント日時を決めていただきます。
そして、ヒヤリングです。じっくりお話をして、今後の方針を決めます。
オプションになりますが、穴埋め式の生活費のシミュレーションをしていただきます。エクセルのフォーマットがあるので、空欄の数値を入れてもらうだけで簡単にできます。家計簿をつけていない人は最低1ヶ月つけていただき数値を出してもらいます。
このシミュレーションでは、子供との生活において、毎月いくら収入があればいいのかを試算することができます。
そして、具体的な収入の道をイメージしていただきます。たとえば月にあと4万円収入を増やさないと赤字になってしまうとします。月4万円というと大変ですが、一日2700円として考え、時給にすると340円増やす。時給1200円を1540円にするなら、雇用主と交渉すればできるかもしれない。そんなふうに、一緒に考えながら、現実的、具体的に自分の生活費をシミュレーションして新しい生活の心構えを作っていただきます。
その上で、先ほど説明したような細かい合意内容を盛り込んだ公正証書を作成し、公証役場に提出します。その後正式に離婚届けを出していただきます。
― この仕事をされて、うれしいことは何ですか。
やはり、依頼者から「勇気とパワーをもらいました」といった元気な声をいただくと本当にうれしいですね。
ホームページを見ていただくとわかりますが、うちの依頼者の方の感想メールは、「これからも何かあったらお願いします」というような自分のことではなく、「大変なお仕事と思いますが、先生もお身体に気をつけて」、「悩んでいる皆さんに幸せが訪れますように」など、意識が自分以外のところ、外に向いているんです。悩まれていて、自分のことで精一杯だったところから、格段に成長されていることが、とてもうれしいです。
私のプロフィールに使わせていただいている「シングルマザーの救世主」という言葉も、依頼者の実際のお礼の言葉です。そういうふうに言われると、ますますがんばろうという気持ちになります。
― 最後に、これから離婚しようとしている人に何か一言お願いします。
「知らない」ということで、人は損をします。
でも、自分が知らないということそのものを知らないことがあります。その場合、残念ながら失敗して初めてわかるわけです。
だから、自分が知らないことをまず認め、自分が知らないということを知ること。自分の考えだけで解決しようとしないで、本を読むなり専門家の意見を聞くということをまずされたらいいと思います。
― ありがとうございました。これからも、シングルマザーの救世主として、ご活躍を心から期待しております。
ありがとうございます。がんばります。
取材日時 平成22年9月
インタビュー制作 取材屋
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